3. 因果関係を探る
https://gyazo.com/93a402d72f37170c3763894b196d1a0b
1. 心理学実験とは何か
1-1. 実験の意味
実験法で用いるデータ収集法
観察データ
質問紙データ
面接データ
心理検査データなど
原因→結果の流れは一過性であるから、意図的に再現することはかなり困難
そこで、因果関係を実証するには
1. 原因の可能性のあるリストからその影響力をできるだけ排除し、
2. ある原因だけがその結果を導くという因果関係あるいは関数関係を再現することを目指す
そのため、実験は多くの要因が混在しているフィールド(現場)よりも、人為的・人工的な実験室内でなされるほうが厳密性は高い
今日ではパソコンを援用した録音録画や画像処理システムの普及により、人間行動への適用が大きく広がっている
1-2. 変数、データ収集
変数
独立変数、従属変数、研究仮説等の用語を使って、実証するための論理や手続きを組み立てていく ある名前のついたなにか(概念という)一つ一つが量的に異なっていて、それが分布を形成する数値のこと たとえば、身長はAさんとBさんにも備わっていて、その測定値を度数分布で表すことができるので、身長は変数として扱う事ができる 心理学で扱う概念は、定義をして測定すれば変数として扱われる
操作的に定義をして適切な測定具で測定すれば、心理学的な変数として扱われる
測定の妥当性と信頼性
測定具が適切な測定具であるかどうかの適切さ
測定した数値が測定ごとにぶれないような安定性の程度
測定値の性質
心理学的データは主として3つのうちのいずれかの性質をもつ尺度値として表現されることが多い
行動観察、キー押し反応、発言の記録など運動・動作・行動など観察できるものを測定値とする
主に、情動的・生理的な変化を心理学的な測定機器を用いて計測し測定値とする
主に目に見えない心理学的な概念について一連の質問項目からなる心理尺度を構成し、その回答などを測定値とする
独立変数、従属変数
原因側とみなす変数
結果側とみなす変数
独立変数の実験操作は大きくは二通りある
質的な操作
性別、地域、年齢などはよく使われる要因
量的な操作
その関数として従属変数が変化することを実証的に測定する
横軸が相談セッションの回数
2. 実験法の基本的考え方
2-1. 仮説
予想のみにとどまっていて、まだ実証されていない因果関係や関数関係についての記述
仮説は経験値や他者の言説、あるいは先行する実験研究などから導かれる
この仮説を実証的に突き止めるには、原因側の独立変数と結果側の従属変数の対応関係を押さえなければならない
つまり、操作的に述べる必要がある
因果関係を突き止めることを証明する基本は、単一の独立変数が単一の従属変数に影響を及ぼすような人工的な事態を設定すること
これが厳密な実験室実験であり、仮説を検証する論理を充たす作業
ところが、原因の可能性は一つとは限らない
そこで、原因と想定する変数以外の影響を事前に排除しておく必要性が生まれる
原因変数以外に事前に想定される変数
2-2. 推測統計学の利用
法則定立的研究と個性記述的研究
標本値をもとにして一般的な法則性を見出す
ある特定の個人(対象)そのものを理解し記述しようとする
確率論的な関係と条件の統制
心理学で扱う因果関係は、ふつうは確率論的な性質をもつ 測定の誤差や実験参加者の知的能力や疲労度などの個人的変数などが関与する
したがって、因果関係あるいは関数関係といっても、実際には確率論的な関係、統計的な関係のことを指さざるを得ない
2-3. 仮説検証と統計的検定の考え方
仮説検証の論理
もっとも単純な実験の一例
あらかじめ無作為に(R: ランダム)2群(あるいは2条件群)を作っておき(「無作為割り当て」)、実験群に対してだけ実験場の操作(処理)をし、対照群にはそのような実験操作はしない 最後に、両群それぞれに対して測定値を求める
もしも事後の測定において実験群と対照群の間に統計的な差が見られれば、それは独立変数(X)の影響の有無によるとしか考えられないとみなす
仮説検証における統計的検定
推測統計学の考え方では、この差がどの程度の確率で起こることなのかと考える
もし2群間に差があることを実証したいのであれば、2群間の従属変数の得点間に差がないという帰無仮説を立てる
この帰無仮説が成立する確率がどのくらいなのかを、実験の結果から得られた2群の得点に関して所与の計算式を用いて計算する
この実験の測定値は、A群の事態で得られる得点の集合(母集団A population A)とB群の事態で得られる得点の集合(母集団B population B)の中から、1回だけデータを収集して得られた各標本値a, b(サンプル sample) もしもこれを多数回行うとしたら、その差(a-b)はいろいろな数値になり、t分布と呼ばれる分布になることがわかっている そこで、この1回の実験から得られた手元の標本値(群差、条件差)がどのくらいの頻度・確率で発生する現象なのかをt分布表を参照して確認する
実験から得られた標本値からいずれかの仮説を選ぶ過程
この例のように2群間の平均値の差を比較するには独立2群の差の検定(t検定)という計算式を用いる なお、この手順であるが、サンプル数が大きくなるほど統計的に有意になりやすいという問題点がある
対照群が必要なわけ
例. 満足の遅延反応の変容に関する実験
満足の遅延日数(先延ばし)が長い児童を、実験参加者として3群にほぼ均等に分けた
課題はある場面における2択反応
報酬は少ないが即時に得られる即時報酬の選択反応
報酬は多いが遅延して得られる遅延報酬の選択反応
3条件群の比較
ライブモデルが即時に報酬を得る行動を観察する条件群
モデル観察群と同じ言語反応だが用紙に書かれたものを読んだ象徴モデル条件群
モデル観察以外は同じ操作である対照群の
直後のテストでは即時報酬の選択肢を選ぶ百分率が上昇、つまりモデル観察の効果が見られる
1ヶ月経過後もその効果は持続している
モデル観察しなくても百分率が上昇するかもしれない可能性を、対照群で排除できる
2-4. 因果関係をとらえる指針
実験法によって因果関係を追求するためには、少なくとも次のような3つの条件を満たす実験計画を立てる必要がある
時系列的には、原因が時間的に先行し、結果は原因の後に生起する
2つの変数は、共に関連して系統的に変化する
想定する原因以外に、他の原因が働く可能性があってはならない
データ収集に先立っては次のことを決める
仮説の決定
独立変数、従属変数の同定とデータ収集の測定方法、統制すべき剰余変数の特定
実験参加者の数の決定と母集団の特定
実験参加者の実験条件への割り付け
目的に合った統計処理の決定
3. 発展的な実験計画
3-1. 実験計画
最初から実験群と対照群の間に得点差があるとしたら、(a-b)が実験群だけの原因によってもたらされたという論理が成立しない
事前に2群間に差が見られないようにしないといけない
しかし実際には、等質な2群を事前に設定することが技術的に困難なことが多い
この対応策として、もう少し厳密な計画を行う
扱う独立変数以外の条件を無作為にしておく
さらに均質の2群を割り付ける時に、たとえば性別、年齢、何かの学力やモチベーションの程度などの有力な剰余変数それぞれを、2群作成の割り付けに組み込む
つまり、ある要因(変数)について同じ程度のペアをそれぞれの群に分配して割り付けていく
無作為割り付けの有無での実験計画の区分
実験協力者を無作為に振り分けて、統制群と実験群の比較をして仮説を検証する実験を
無作為の割り付けと統制群の設定は満たされないが、実験の形態を取る実験
純粋実験と区別した呼び方
必ずしも直接的な因果関係の実証には適さないが、それに近い貴重な情報を得ることができるものとしてよく利用されている
純粋実験で得られた結果は、実験室で排除した他要因が混在する実際の日常場面に当てはめにくいから
得られた知見が諸要因の混在する日常場面に適用できるかどうかの程度
現場で行う実験の長所は生態学的妥当性が高いこと
他方で、追試が困難であり、剰余変数の統制が容易ではない
3-2. 2要因計画
独立変数が2つ以上のとき
要因を分割するカテゴリー
e.g. 性別(男、女)、学年(2年生, 4年生, 6年生)などによってあるTV番組の視聴時間の長さに違いがあるか
性別が一つの要因で、男女の性別がその要因の水準(2つ)にあたる
年齢も他の一つの要因で、学年の違いが水準(3つ)にあたる
陸上学習群と水中学習群
条件によって結果が異なる状態を交互作用があるという 再生場面の要因を考慮に入れなければ、この種の情報は見逃されてしまう
要因計画法はある要因が一貫して差や効果を持つこと(主効果)、および要因と要因間の水準間の状態の違い(交互作用)を検出するのに優れている 変数が参加者間か参加者内かによって要因計画法のモデルが異なり統計処理も異なる
性別や学年のようにデータの水準が別サンプルから得られる場合
同一サンプルから得られる場合(事前ー事後の2度の測定得点など)
なお、独立変数(要因)としてパーソナリティテストの得点などで高得点者と低得点者を分けた場合、割り付けられた実験参加者は無作為ではないので、実験のように見えるものの、実質的には準実験という名の相関的な研究になる
3-3. よい実験の条件
長所
観察の視点や解釈が客観的に行われる
因果関係について信頼できる推測が可能である
研究自体を統制して、特定の問題を解決するために計画された事態を作り出すことができる
短所
環境操作が被験者にとっては非日常的なこと、人工物となりがちである
簡単には実験的操作のできない変数が多くある
技術的には可能であるが倫理的な配慮から操作できない変数が多く存在する
一度に多くの要因を考慮して大量のデータを集めることはできない
被験者が自分自身、研究の対象になっているとわかっている